3/22、東北電力管内と東京電力ホールディングス管内において電力の需給ひっ迫が生じ、政府は初の「電力需給ひっ迫警報」を出しました。
東京エリアの送配電業務を担う東京電力パワーグリッド社は、twitterにてエリア内の需給状況をリアルタイムに更新していました。それによると節電を行わなければ数百万件規模の停電が生じる恐れがあるということでした。
結果として停電は免れましたが、水力発電が尽きると停電というまさにギリギリのラインまで追い込まれていたことがわかります。
今回は、なぜこのような事態が生じたのかを見ていき、電力会社への投資について考えていきます。
需給ひっ迫が起きた要因は?
今回の電力危機が起きた直接の原因は主に3つあります。
福島沖地震による火力発電所の緊急停止
まずは3月16日(水)に発生した福島県沖の地震の影響による火力発電所の停止です。
この地震により、東北・東京エリアの火力発電所6基(計約330万kW)が引き続き停止しています。震源地に近い東北電力とJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)の火力発電所が相次ぎ停止し、かなりの供給力が失われました。
季節外れの冷え込み
次に挙げられるのは急激な冷え込みによる電力需要の減少です。22日の東京都の最高気温は平年を大きく下回り、みぞれや雨、雪などが降る天候となりました。
寒くなると人々は暖房をつけますよね。電気ヒーターやこたつなどの利用する人が増加すると、全体の電力需要も大きく増加します。
積雪による再エネ停止
そして最後は再エネです。日光や風だけで電力を生み出す再生可能エネルギーは発電に燃料が不要なエコなエネルギーですが、天候に左右される気まぐれな電源になります。
需給逼迫が生じた当日は天候が悪く曇りがちであったことから、日光が必要となる太陽光発電の稼働は大きく落ち込んでしまいました。
総じていうと、地震により大型火力発電所の多くが停止し、天候悪化による電力需要増、更には再エネ停止などまさに三重苦ともいうべき状況に置かれていました。
しかしながら、「地震がたまたま起こって天候が悪かったから起こっただけ」と済ませることはできません。
これら直接的な原因の裏には、構造的課題があります。
背後に潜む3つの構造的課題
直接的な理由は上記の通りですが、電力供給は生活の根本であることから電力会社はいかなる時でも電力を途絶えさせないように、様々な対策を講じています。
それでも今回は危うい状況であり、更にはこのような事態は今後も生じる可能性は非常に高いと考えています。それは背後に構造的な課題が複数存在しているからです。
電力自由化による競争激化
原発事故後、政府は電力システム改革を打ち出して、自由化を推進しました。2016年には小売りを全面自由化が為され、家の電気の契約を自由に選べるようになりました。
それまで、電力会社は家庭向家の小売については地域独占を認められ、人件費や設備投資のコストを電気料金に織り交ぜて利益を上乗せする「総括原価方式」で価格が決められていました。
これは電気やガス・水道などのライフラインに関する事業でとられている方式です。
しかし、全面自由化により総括原価方式が撤廃された結果、競争激化によって利益水準が減少。
電力会社は採算性の悪い電源を廃止せざるを得ない状況に追い込まれました。
火力発電所のフェードアウト
先ほどの論点と繋がっていきますが、日本の火力発電所の数は年々減少しています。理由として、前述した自由化による採算性悪化と、脱炭素のトレンドです。
ご存じの通り、火力発電所は発電時に燃料を炊くことで多くのCO2を排出します。そのため、世界的に火力発電所の休廃止が進められてきました。
日本の電力会社においても、CO2排出量の多い石炭や石油を活用した火力発電の廃止が進んでおり、代わりに天然ガスでの火力発電所が増加しています。
原子力発電の未稼働
最後は原子力発電所の稼働問題です。2011年の福島原発の事故により、現在も多くの原発が審査の段階であり、停止している状況です。
勿論、安全性を認められなければ動かすべきではありませんが、事故前はおよそ30%の電力を原子力に頼っていたため、電力の供給力としての影響は今も大きいと考えられます。
電力会社への投資はどうするべき?
今回の需給逼迫において、全面に出ていたのは東京電力ホールディングス(東電HD)のグループ企業である東京電力パワーグリッドという会社です。同社は主に送配電の運営業務を担っていますが、このように電力会社が分社化しているのは、福島原発事故後に進められた電力システム改革に起因します。
現状は厳しいが・・・
電力システム改革以降、電力会社は競争激化に巻き込まれ収益率は低下の一途ですが、各電力会社は企業価値向上に向けて事業領域の拡大を進めています。
再生可能エネルギー事業
今まで電力会社は、原子力発電や火力発電など大規模電源にリソースを集中させていましたが、脱炭素トレンドの中で、自社として再エネ開発を強力に推進しています。
東京電力HDは、再エネ事業を2030年までに年間1,000億円規模の純利益を目標としています。
海外事業
日本は、人口減少が進展しており国内での電力事業だけでは事業規模は右肩下がりです。そのため、電力会社は海外事業に商機を見出しています。
東電HDはハワイでのマイクログリッド事業やイギリスでの蓄電池事業など、これまでの知見を活用した海外事業を推進しています。
結局、投資すべきなの?
このように、既存電力事業が非常に厳しい環境であることから、2022年3月現在で株価は横ばいとなっています。
しかしながら、再エネ事業や海外事業など、今後市場拡大が予想される市場への布石もあることから、今後大きく伸びる電力会社が出てくる可能性はあるので要チェックです。
最後に
今回の電力危機は様々な理由が重なり生じたものですが、背後を見ると電力システム改革による影響など、様々な要因が重なっていることがわかります。
電力会社は非常に苦しい経営を強いられていますが、さまざまな新しい事業領域に果敢にチャレンジしていることもわかりました。
これまでは配当金目当てという投資が多いイメージの電力会社ですが、例えば再エネ事業の成長を信じて投資をするというのも考えてもいいかと思います。