企業分析

日本テレビがスタジオジブリを買収!買収価格は何百億円?まとめて解説します!

「千と千尋の神隠し」、「もののけ姫」、そして「君たちはどう生きるか」を上映中であるスタジオジブリが株式を日本テレビに譲渡するという衝撃のニュースが入ってきました。

今回は買収の背景や今後の動向について解説していきたいと思います。

今回の買収騒動の概要

スタジオジブリの株式を日テレが取得

日本テレビは、スタジオジブリの株式約42.3%を取得し、同社の子会社化をすることを発表しました。

同社の発表を受け、株価は一気に上がり、日本テレビの時価総額を500億円以上押し上げました。

宮崎駿監督は「取締役名誉会長」、鈴木敏夫プロデューサーは「代表取締役議長」、宮崎五郎氏は「専務取締役」の役職に就くことが決定しています。

子会社というのは、会社法上では議決権の過半数を取得することが条件なのですが、今回は「意思決定機関を支配している」とみなされることにより、支配力基準という考え方に基づいて子会社という扱いとなりました。

一般的な子会社の判定基準は以下の通りです。

議決権議決権以外の要件判定
(1)50%超なし子会社
(2)40%以上、50%以下の場合特定の者の議決権とあわせて50%超
又は一定の要件
子会社
(3)40%未満の場合特定の者の議決権とあわせて50%超
かつ一定の要件
子会社

日本テレビとのこれまでの関係性

スタジオジブリと日本テレビとの関係は古く、日本テレビの会長・社長を務めた氏家氏とスタジオジブリの初代社長である徳間氏の関係がきっかけとなります。

鈴木敏夫プロデューサーはその時の縁を大事に、今も日本テレビとの関係性を大事にしているのだとのこと。

「氏家さんと徳間は6歳離れていて。氏家さんは東京大学の学生で、徳間は読売新聞の記者だったとき、映画を作るために氏家さんたちがシナリオをチェックすることになった。その取材に行ったのが徳間で、意気投合して付き合いが始まった。僕は徳間や氏家さんから何回もその話を聞かされました。この関係は一言で言えば友情なんです。後のジブリと日テレの関係を作った。それと同時に、自分で言うのはこっぱずかしいですが、この2人が僕のことを随分かわいがってくれて。この2人がいたから今日の僕があるのかなとも思いました。その延長線上にジブリがあります」

ジブリの放送が金曜ロードショーだけなのはなぜ? 鈴木敏夫が明かす秘話 : 映画ニュース – 映画.com (eiga.com)

スタジオジブリの作品というのは、世界的に大人気でありどこのテレビ局も放映権が欲しいに決まっているのですが、これまでスタジオジブリの作品は日本テレビの金曜ロードショーでしか放送されておらず、強い関係性が見て取れます。

ジブリと日本テレビは本当に、長いお付き合いです。ナウシカのテレビ放映から始まるんですが、お付き合いの長さたるや、40年近くなる。日本テレビさんにお願いするのは、もしかしたらご納得いただけるのではないか。これはファン含め、みなさんの、そういうお考えがあるだろうと、そう推測したわけです。

というわけで今般、スタジオジブリは経営の部分を当面今の日本テレビさんにやっていただく。虫のいい話ですが、日本テレビさんに預けて、ぼくらは作品作りに没頭する。日本テレビさんからも「今まで通りジブリはやってもらって構わない。その中で両者の関係を深くしていこう」となった。

「ジブリ」なぜ日テレ傘下に 1時間の会見で語られた問題とは 鈴木社長「ことごとく失敗に終わった」【会見詳報】:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

鈴木敏夫プロデューサーの発言

今回の買収については、鈴木敏夫プロデューサーが記者会見の場に姿を現し語りました。

買収のきっかけは以下の2つとなります。

  • ①現経営陣の高齢化
  • ②宮崎五郎の固辞

①現経営陣の高齢化

きっかけはずばり、経営者の高齢化です。宮崎駿は82歳、鈴木敏夫は75歳という高齢で、社会的には後期高齢者の区分けに入ってしまうほどの年齢です。

今後のスタジオ運営を考えると、大きな会社のサポートの元で経営するのが一番いいのだろうという考えがあるのではないでしょうか。

スタジオジブリのコンテンツは全世界的な人気を誇っており、当然、Amazonやネットフリックス、ディズニーなども買収意欲はあるはずなのですが、なぜ日本テレビだったのでしょうか。

お二人とも高齢であり、これまでの関係性を重視したという事は勿論なのですが、これまでの作品作りで自由にやらせてくれサポートしてくれたという恩義が日本テレビに対してあったのかもしれませんね。

②宮崎五郎の固辞

実質的な創業者である宮崎駿と鈴木敏夫は、元々宮崎駿の息子である宮崎五郎への後継を考えていたようですが、実は断られていたことが会見で明らかになりました。

鈴木氏 宮崎とぼくとでつくった会社です。それを吾朗君に継いでもらいたいという考えをぼくは持ったのですが、最後まで反対したのが宮崎。なんでか。理由は簡単。宮崎という名前のもと、ジブリを支配するのは違うのではないかと。もっと広い目で、いろいろやったほうがいい。それが理由として大きかった。

というわけで、宮崎は、今朝改めて今日こういうことをやると説明したのですが、彼も納得していました。吾朗が継ぐことには「おれはやっぱり反対だ」と言っていました。

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後継者不在という状況の中、これまで良好な関係を築いてきた日本テレビへの譲渡を選択したということになります。

スタジオジブリの経営分析

それでは、スタジオジブリの経営分析をしていきます。作品自体は日本国民であれば知らない人はいないと思いますが、経営状況について知っている方は実はかなり少ないのではないでしょうか。

スタジオジブリの歴史

スタジオジブリは1985年に徳間書店の子会社として設立されました。同社社長の徳間氏が初代社長に就き、ジブリの書籍全般は徳間書店から発行され、メディア展開の中核的コンテンツとなっていきました。

その後、ナウシカのテレビ放送を機に日本テレビとの関係性が強まり、もののけ姫や千と千尋の神隠しなどのヒットコンテンツが次々と飛び出し、世界屈指のアニメーションスタジオとして確立します。

資本金を見ると1,000万円と、金額だけ見ると本当に小さなスタジオかと思ってしまう規模の資金力です。一方で映画化の際には、政策委員会方式を活用して多くの企業から資金調達をしていることから、自己資金を活用せずとも大規模な映画製作が可能となっていました。

経営状況

スタジオジブリは未上場企業なので、詳細な財務データは公表されていないのですが、以下のnoteにて、2006から2023年に至るまでの純利益&バランスシートの推移が紹介されていたので分析していきます。(massinaさま、引用させていただきます)

https://note.com/massina/n/na6d20565c209

純利益

ゲド戦記が公開された2006年は約15億円、ポニョの公開年である2008年は約30億円であり、作品公開の隙間の年は半分以下の利益となるなど、スタジオジブリの純利益は、映画作品の公開年によって非常にばらつきがあります。

一方で、ストリーミング放送を始めた2020年以降は利益が右肩上がりとなっています。ネットフリックスでは日本以外でジブリ作品を公開していることから、それらの権利収入が売り上げに寄与しているものと考えられます。日本での公開すれば更なる利益向上が見込めることは間違いありません。なぜ公開しないのか、と考えると、やはり日本テレビの金曜ロードショー放送を考慮しているのかもしれませんね。

バランスシート

バランスシートを見てみると、借り方を見ると、流動資産が多めで固定資産は1/3程度となっています。貸方については当初は負債が半分以上を占めているものの、年々、利益剰余金が積み重なっていることから、財務的に非常に優れており、恐らく流動資産は殆ど現金なのではないでしょうか。

いくらで買収されたの?

スタジオジブリは非上場企業であることから、株価は外部から知ることはできません。

しかしながら、上場しているアニメスタジオの株価水準から推測することは可能です。上場しているアニメスタジオの2社を取り上げ、企業価値を推測していきます。

東映アニメーション(4816)

言わずと知れた老舗アニメーション企業、東映アニメーションです。
アニメーションを製作し、その映像を各種メディアに販売、また同時にその著作権をもとに、版権事業、関連事業を営んでいます。


代表作品としては、『ドラゴンボール』『美少女戦士セーラームーン』『ワンピース』など日本を代表し、アニメーション業界を作ってきた数々の作品を生み出してきた企業です。

株価をみると、時価総額は5500億円、PERは26倍ということがわかります。

IGポート(3791)

株式会社IGポートは『Production IG』の持株会社です。
また、IGポートグループは、IGポート及び株式会社ウィットスタジオなどの連結子会社によって構成されています。

『Production IG』 の代表作には『攻殻機動隊』『PSYCHO-PASS サイコパス』『ハイキュー』、『WIT STUDIO』の代表作には、『進撃の巨人』『甲鉄城のカバネリ』などがあり、ヒット作を多数輩出しています。

時価総額は210億円で、PERは25倍ということがわかります。

スタジオジブリの企業価値はずばり・・・

上記二社をみると、時価総額は全く異なりますが、PERは25倍〜30倍程度の似通った水準であることがわかります。

通常、企業価値を算定する場合は、同じ業種の株価水準をベンチマークにしますので、今回も上記2社の株価水準を参考にスタジオジブリの企業価値を算定してみます。

このような類似企業を比較して株価を算定することを、マルチプル法と言います。

企業価値は、純利益×PERにより求められますが、直近でのスタジオジブリの純利益は、約35億円となります。

更に、類似企業のPERが25〜30倍となっていますので、それらを掛け合わせることで企業価値を類推することができます。

以上より、スタジオジブリの企業価値は、875億円〜1,050億円程度と推測します。

日本テレビは株式の42.3%を取得したとのことですから、取得金額は、370億円〜444億円程度の水準だと考えることができます。

なお、株価収益率(PER)については下記記事にて詳述していますので、ご覧ください。

スタジオジブリジブリは今後どうなるの?

世界的なアニメーションスタジオであるスタジオジブリが大手テレビ局の傘下に入ったことにより、今後の作品作りはどうなってしまうのでしょうか。

ジブリの作品作りを引き続きサポートしていく

鈴木敏夫プロデューサーの以下の発言から察するに、ジブリでの作品作りは極力これまで通り続けてもらうようにするようです。

日本テレビとしても、介入をして作品作りを邪魔するより、自由に作品を作ってもらい、それらを日本テレビ等で公開する方が双方メリットがあるという考えがあるのだと思います。

というわけで今般、スタジオジブリは経営の部分を当面今の日本テレビさんにやっていただく。虫のいい話ですが、日本テレビさんに預けて、ぼくらは作品作りに没頭する。日本テレビさんからも「今まで通りジブリはやってもらって構わない。その中で両者の関係を深くしていこう」となった。

「ジブリ」なぜ日テレ傘下に 1時間の会見で語られた問題とは 鈴木社長「ことごとく失敗に終わった」【会見詳報】:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

実際に今後の作品の構想もあるようで、まだまだジブリ作品を楽しむことが出来そうです。

Q 宮崎さんの今後の企画案やほのめかしは。

鈴木氏 本当はあるんですけど内緒です。宮崎はとにかく引退宣言を繰り返してきましたから、またかと言われると困っちゃうが、やっぱり死ぬまで、企画だけじゃなく、本当に自分が作りたい。それは理解できます。そばにいて。やれるものなら死ぬまでやりたい、命のある限り。だと思います。

「ジブリ」なぜ日テレ傘下に 1時間の会見で語られた問題とは 鈴木社長「ことごとく失敗に終わった」【会見詳報】:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

Huluでジブリ作品が見れる?

日本テレビは今回の買収に際して、シナジーを追求していきたいという考えを示しました。

日本テレビグループ全体の企業価値向上に資すると考え、同社の株式取得を決定した。

下記のシナジーを想定した株式取得となる。
・経営面をサポートし、これまで以上に「もの作り」に専念していくことが可能となり、新たな作品を生み出す土壌ができる。
・「作品を大事にする」というスタジオジブリの価値観やブランドの価値を守り続けていくことができる。

日本テレビ放送網、スタジオジブリを子会社化へ|M&Aニュース|日本M&Aセンター (nihon-ma.co.jp)

Huluはアメリカ発のビデオオンデマンドサービスですが、2014年に日本でのサービスはHulu, LLCから日本テレビに売却され、日本テレビ子会社のHJホールディングスに運営されています。

仮定の話はありますが、ジブリ作品がHulu独占配信でもされるのであれば、会員数増加は間違いなしですから、そのような事業展開も日本テレビが狙っていることは間違い無いでしょう。

世界屈指のアニメスタジオであるスタジオジブリ、旧知の日本テレビの傘下に入ることによってどのような動きをしていくのか、今後も目が離せませんね。